DIC川村記念美術館で開催中の「絵の住処ー作品が暮らす11の部屋」展に合わせて、
book pick orchestra川上洋平が本を選んで行ったギャラリートーク
「本好きのための美術案内」。
学芸員の方と一緒に11の展示室を回りながら、
作品や空間と本とのつながりについてお話ししました。
今回選んだ本は、絵画についての解説書や研究書などではなく、
絵画の背景や画家の作品との距離感など、
絵画のもつ印象がどこか共鳴している本を選びました。
本でも絵画でも、感動に心がふるえる瞬間は、思いもしなかったところで起こります。
本を選ぶことで、少しでも絵画の感動につながる橋かけられるよう
心がけ選ばせてもらいました。
この中のどれか1冊でも、みなさんの心に波紋を広げられる水滴になればうれしいです。
選んだ約50冊の本は、
その本と美術作品とのつながり、選書の視点に関するコメントとともに
現在、日本画展示室の奥にある茶室にて展示しています。
ぜひ絵画を見た後に、お茶を飲みながら手にとっていただけたら幸いです。
以下に、展示中の本の一部をご紹介します。
《101 ヨーロッパ近代絵画の部屋》
『一色一生』志村ふくみ 求龍堂
for クロード・モネ《睡蓮》
季節や時間によって移り変わるシヴェルニーの睡蓮池を連作で
表現した《睡蓮》。本作はそのうちの一枚です。この絵に選んだ
本の著者、志村ふくみさんは、色の背後にある植物の生命を色
を通して映し出すように、さまざまな植物の花、実、葉、幹、
根から色を染めてきました。染織家としての体験の中での深い
思索を細やかに語る随筆には、詩的な美しさを感じます。
『タラチネ・ドリーム・マイン』雪舟えま パルコ
for マルク・シャガール《ダヴィデ王の夢》
まさにシャガールの描く、理想の国。そこにはさまざまな対立
やナチスの迫害などの苦悩を経た上での、時空を超えた幸福感
が感じられます。雪舟えまさんの作品にも、現実感を手放さず
に未来へ向けて幸せを希求するような物語が詰まっています。
「ワンダーピロー」というお話は、この絵に明るく描かえた人びとを、
「モズ・ラファ」という話は中央の男女を描いた物語のようです。
《102 レンブラント・ファン・レインの部屋》
『風貌』土門拳 講談社文庫
for レンブラント・ファン・レイン《広つば帽を被った男》
若き実業家のように見える、《広つば帽を被った男》への想像を
巡らせるための三冊目の本は、日本を代表する写真家、土門拳
が様々な分野の一流の人びとの一瞬の表情を写しとった『風貌』
です。彼は名文家としても知られ、すべての写真には一文が
添えられています。数々の風貌を見た後に、再び、絵の男に目を
移すと、少し違った表情や性格が見えてくるかもしれません。
《103 彫刻の部屋》
『ヴィーナス・プラスX』シオドア・スタージョン 国書刊行会
for コンスタンティン・ブランクーシ 《眠れるミューズ II》
ブランクーシは「孤高の彫刻家」とも呼ばれますが、スタージョン
もまた孤高であり、独創性に満ちた思想の持ち主。『ヴィーナス・
プラスX』は、今なお新しく、性的なテーマを考えさせるSF小説です。
《眠れるミューズ II》の単純化された形態は、女神でありながら
男性のようにも見え、本書に登場する未来都市の人びとの姿を彷彿
とさせるとともに、二人の作家の本質を突き詰める姿勢にも共通性を
感じます。
《110 日本画の部屋》
『愛猿記』子母澤寛 文藝春秋
for 橋本 関雪《秋桜老猿》
この絵を見て、はじめに感じたのは猿との距離の近さでした。
猿は凶暴なのでこんなに近づけないのではと思ったときに、
子母澤寛『愛猿記』を思い浮かべました。子母澤寛は歴史小説
を中心に活躍した作家ですが、ひょんなことから、誰もが手に
負えない猿を引き受けることになります。タイトル通り愛する
猿との日々、扉にはさまれた写真を見ていただければ、
猿との距離感を感じていただけると思います。
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※「絵の住処ー作品が暮らす11の部屋」
http://kawamura-museum.dic.co.jp/exhibition/index.html
※DIC川村記念美術館
http://kawamura-museum.dic.co.jp/index.html