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【レポート】Fantastic Arcade Project「まち、ひと、ほん。」<後半>

<前半>に続き、
Fantastic Arcade Project「まち、ひと、ほん。」のレポート後半です。

3夜連続トークセッション、2日目のお相手は、
小倉の一箱古本市「とほほん市」の岩本史緒さんと、
小倉の市場「旦過市場」にピクルス&お野菜茶「はしご屋」を開業した後藤大悟さん。

岩本さんはふだんは北九州芸術劇場で働かれながら、
「とほほん市」をはじめとした街の活動に関わっています。
一方の後藤さんも、ふだんは種苗屋さんとして種や土を相手に働かれながら、
「はしご屋」を運営しています。

お二人に共通してとても印象に残ったのは、
その活動の根本にある「なぜいまの仕事をしているのか?」という理由でした。

後藤さんは、ふだん種苗屋さんとして、様々な農産物に接している中で、
野菜の魅力をもっと発信したいと「はしご屋」を始めたのですが、
種苗屋さんとして扱っている野菜の種類はほんとうに多彩。
例えば、そのあとのケータリングごはんで出してくれたミニトマトだけでも、
赤から緑、そして紫のものまで4、5種類あります。
「トマトといっても、本当にいろんな種類がある。その種類によって、
味も食感もさまざま。さまざまな野菜の魅力を知ってもらいたい。」
と後藤さんは言います。

たしかに、料理に何の野菜が入っているかというときに、
今でこそ産地までは気にしますが、それがどんな品種のもので、
その品種にはどんな特徴があるのかまではほとんどの人が知りません。
野菜の品種の特徴や性格、土地との相性、育てやすさなど、
広大で奥深き野菜の世界を感じさせられるお話でした。

一方、岩本さんは「とほほん市」という小倉で開催される一箱古本市を、
とってもゆるーい感覚で開催されています。
そのゆるさのセンスはすばらしく、そのコピーも秀逸。
「さんぽ サンデー とほほん市」です。
コピーからチラシ、サイトまでゆるいのに引き込まれる独特の魅力があります。

今回、ゲストのみなさんにはお気に入りの本を持ってきてください、と
事前にお話してあったのですが、岩本さんはさぞゆるい1冊なんだろう、
どんなゆるい本なのか愉しみだなぁ、とほんわかしていたところ、
なんと手にされているのは、ミシェル・フーコー『監獄の誕生』!!
フランス哲学の知の巨人、ミシェル・フーコーが、
近代に確立された監獄の仕組み、一望監視システム「パノプティコン」を軸に、
近代社会の原理を監獄に見ていくという、重厚なる1冊!文句なしの哲学書です。
私も何年ぶりかに「パノプティコン」と口にしました。
なんと「のほほん市」がフーコーの思想の延長上に置かれるとは!
急激の展開にもう冷や汗たらたらです。

後藤さんが、野菜に対する概念の監獄を崩そうと「はしご屋」を運営し、
岩本さんは、近代社会の監獄性を打ち倒そうと「とほほん市」を行われているとは、
小倉はなんてラディカルな街なんだと思いしらされました。
かわいいワッペンのついた袋から取り出されたのが、鋭いドスだったかのような、
小倉の芯の太さに目を覚まされる2夜目でした。


早くも最終日の3日目。
深夜に大雨が降り、朝から生憎の雨模様。
午前中のワークショップは残念なことにキャンセルが続いてしまい、
少人数だったので、持ってきた本を元にお話会をしました。
短めにお茶を飲みながら、休日の朝から本の話をして愉しもうと始まったら、
これまた午前中とは思えないディープな話になり、
相対性理論から超ひも理論、五次元理論に民藝運動、仏教の話を経由して、
気づいたら仏陀まで出てきてしまいました。
うーん、小倉住民の方もまた恐るべし、前夜から深くいい話が続きます。

3夜連続トークセッションの最後は、
1月、3月からいっしょに参加したり、協力していただいているサンロードのお店や
作家のみなさんに集まってもらって、みなさんそれぞれの活動や、
持ってきた本との関係性について話してもらいました。
2日間を経て、本のある場所を作っていくことは考えつつも、
すでにこの街にいる方々が自分の活動とともに、どう本と関係してきたのかが気になり、
みなさんに本の話をしてもらいました。

今回の登壇者のみなさんのことはある程度知っているつもりでいたのですが、
実際に話を聞いてみると、知らなかったそれぞれの歴史に触れることができました。


邦楽の店 渡辺の丸山望さんは、もともとロックが好きだったことから、
バンドを始め、そのうちにギターを作ってしまうところまで来て、
楽器制作の仕事に向かい、今では三味線から太鼓、琴などなど、
和楽器の修理から制作まで手がけられています。
丸山さんがとても面白いのは、今もロックと変わらない感覚で、
和楽器と関わられていること。
丸山さんの見た目も和楽器制作の方というよりも、
ミュージシャンと言われた方が納得しやすいかもしれません。

今回、森達也『放送禁止歌』という本を持って来てくれました。
この本は、世の中で放送されなくなった歌、それらはなぜ「放送禁止歌」となったのか、
誰が規制をしたのかを探っていくという、目の付け所も内容も骨太な一冊。
少しネタバレになってしまいますが、実は誰も規制した人はいなく、
実はみんながそれぞれに自主規制をして、「放送禁止歌」という、
あたかも禁止されているような考え方ができてしまった、とのこと。
紹介する丸山さんのお話を聞いていると、
丸山さんがロックの感覚で和楽器に関わり続けるという、
まさにロックなスタイルを貫いているかが少し納得できたような気がしました。


emoさんは、ドローイングや切り絵といった手法を使って、キャンバスはもちろん、
かばんから靴までなんでも世界観を表現してしまうアーティストです。
真っ赤な壁紙のお店がとても印象的だったのですが、
実はモノクロの作品が多かったり、作品もとても繊細。
自己紹介では元ホームレスだった!話なども出て、とても興味深い内容でした。

持って来てくれた本は、
ジョナサン・サフラン・フォアの『エブリシング・イズ・イルミネイテッド』。
若手の注目されてる作家なので、海外文学をたくさん読まれているのかなと思ったら、
「ぜんぜん知らない作家だったんですよ」とemoさん。
そう、emoさんの本の選び方はとってもユニークでした。
彼女が買う本は初版に限られるそうで、それはなぜかと言うと、
彼女は本屋さんに言ったら、自分の生まれ年のワインを探すように、
自分と同じ誕生日の本を探して買っているとのこと。
この本もそうして出会って大好きになった本なのだそうです。
これは思いつかなかった面白い発想だなぁ、ととても驚かされました。


よしいいくえさんは、モビール作家さん。
(トーク中の写真がなく。。。打ち上げの写真です。)
よしいさんがつくるモビールはとてもかわいらしくて、
その場をパァーと照らすような明るさがあります。
もともと、彼女は油揚げの会社で事務の仕事をされていて
(ここらへんがもう、らしさ満点なのですが)、
その際のオフィスがふつうの雑居ビルで、まさに事務作業!といった感じの
暗いところだったそうです。
そんな環境の中で、少しずつオフィスをパッと明るくするような
ちょっとした雑貨などに興味を惹かれていき、よき出会いもあって、
モビール作品を作るようになったそうなのです。

よしいさんは、いま【城野団地リノベーションプロジェクト】で、
「よしいさんの、毎日」という、モビールで綴る日記を更新中で、
こちらのブログも注目なのですが、モビールを始めるまでの前史のストーリーも、
まるでよしいさんの作るモビールの世界での出来事のようで感心してしまいました。

持ってきてくれた本は、東海林さだおさんの本。
「とっても大好きな本、この人は天才です!」といって紹介してくれたその本は、
近くのおすすめの蕎麦屋さんで偶然に出会った本とのことでした。
蕎麦屋で東海林さだおさん、いいなぁと思って、
「その蕎麦屋さんのおすすめメニューは何ですか?」と聞いたところ、
答えはなんと「カレーうどん!」
蕎麦屋さんなのに、うどん!しかも、カレー!!
うーん、よしいさんさすが、ブレがありません。


塩井一孝さんは、フロッタージュという手法を用いて絵画や彫刻、
インスタレーションを行っている美術作家。
フロッタージュは、石や木の表面に紙を押しあて、その上を鉛筆などで擦り、
ものの表面を紙に写し取る技法です。
もしかしたら、子供の頃に10円玉や100円玉を映しとった経験のある方も
いるかもしれません。
しかし、塩井さんのフロッタージュ作品は
今まで見たフロッタージュとは全然印象が違いました。
はじめに小倉に来た時、昔の倉庫の一室を覆う
塩井さんのフロッタージュ作品を見せていただいたのですが、
写し取られた物質の肌がその壁に息づいているような存在感がありました。

持ってきてくれた本は、石川直樹さんの『この地球を受け継ぐ者へ』。
石川さんの初期の本で、「Pole to pole 2000」という、
世界中から集められた8人の若き冒険家が人力だけで北極から南極まで旅をする、
冒険プロジェクトに参加した時の日記をまとめたもの。
これを読んで、塩井さんは大いに刺激を受けたと話してくれました。
塩井さんとは、お茶したり散歩したり、
いっしょに過ごす時間が幾度かあったのですが、
この本を介してみると、なるほどとうなづけるエピソードがいくつかあったりして、
改めて本を紹介してもらう、とその人が見えてくるなぁと思いました。
このあとに見せてもらったポートフォリオの中にある、
波打つ川の岩の上でフロッタージュしている写真に映った塩井さんの背中には、
貴重な遺跡を映し取るかのような、冒険家の気配が感じられました。

今回ワークショップ、トークセッションに参加いただいた方には、
塩井さんの作ってくれた特製のフロッタージュブックカバーが配られ、
そのフロッタージュカバーも独特の味わいあるブックカバーに仕上がっていました。

小倉にはかつて、いくつかのすばらしい本屋さんがあり、
その一つには「金栄堂」という、今も語りつがれる本屋さんがあります。
金栄堂が語られる有名な話の一つに、店主自らお願いして絵を描いてもらったという、
伊丹十三が意匠を手がけた金栄堂のブックカバーがあります。
伊丹十三ファンには、今も探している人がいるほどに
語り継がれている名作ブックカバーなのですが、
今回なんと!「邦楽の店 渡辺」さんが特別に金栄堂さんにお願いしてくれて、
一枚いただくことができました。

かつて小倉の文化を支えた金栄堂のブックカバーと、
Fantastic Arcade Project特製のブックカバー。
この2枚をトークの最後にみなさんに見ていただきながら、
3日間続いた「まち、ひと、ほん。」は幕を閉じました。

そして、最後に書いておかなくてはいけないのは、
トークの写真にチラチラリと写っている、窓格子の向こうの世界のみなさんのこと。
彼らは、今回のイベントを一冊にまとめるべく、
編集のマイアミ企画さんと、グラフィックデザイナーのオカザキトモノリさんを中心に、
熱き同志が集まって編成されたZINEチーム。

この数日間、昭和な民家の待合室が、数台のMacで埋まり、
扇風機が回る室内は、あたかも大学の部室を思わせる風情。
その中である人は腱鞘炎が心配になるスピードでタイプ打ちし、
ある人はテキパキとテキストを編集してまとめていき、
またある人は、編集されたテキストを紙面にレイアウトしていきます。
表紙も1枚1枚カラースプレー片手にすべて手作り。
そして、最終日に製本されて出来上がったのが、このZINEです!

それぞれのメンバーが自分の役割をこなしながら、
ZINEの製作工程がどんどん進んでいく様子を見ていると、
往年の名作TVドラマ、特攻野郎Aチームが脳裏をかすめました!
無謀なプロジェクトにチームワークで挑む姿は、まさしく特攻野郎ZINEチーム!
みんな本当におつかれさまでした!ありがとう!

完成したZINEは、この日完成してオープンした、
「ナツメ書店」で手に取ることができます。
店長の倉内さんは、1日目に対談した大井さんのブックスキューブリックで
働いていた経験を持つ倉内さん。
「まだまだプレオープン状態なんです。」と倉内さんは言ってましたが、
つい立ち寄ってしまうなぁ、と思わせる本たちと店内インテリアの完成度。
「ナツメ書店」の今後にも期待です!
 

福岡方面へ行く方は、ぜひ魚町サンロードのある小倉の街にぜひ立ち寄ってみてください。

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