2005/10/26

『月刊ヒント 創刊2号』



しばらく古本を買うということを続けていると、買うときのポイントというのがいくつかできてくる。そのポイントの合計点を値段と見比べ、ある線を越えると、じゃあ買おうか、ということになる。ただ、例外はある。それは、どれかのポイントが傑出して高いか低いという場合。例えば、全く知らないが装幀に強い引力めいたものを感じたり、名前に怨念めいたものを感じたりである。

『月刊ヒント』もどちらかといえば、例外にあたる。まず名前にズレを感じた。そして、装幀がよくない。もちろん、高ければ買わないが、安かったのでつい購入してしまった。中身をペラペラめくってみると、これまたひどい。特集1は、「ぶらさがり健康器の秘密」。読んでみると、専門家の意見を聞きつつ、ネタぎれなのではと思わせるほどの幅広い視点から、ぶらさがり健康器について語る。しかしそこに特に秘密はない。特集3「近未来テスト」は、1979-2001までの間に、列挙された事件がいつ起こるかを予想して応募するというもの。2005年のいま見てみると、「紅白歌合戦が終わる日」など興味深いものもあるが、残念ながらどれ一つとして、いまだ起きていない。そして、極めつけが、「超能力テスト」。ことばでは少し説明しにくいが、クイズ形式でいくつか問いが並ぶ。Q2 POSITIONING TESTは、空の写真の横に「どこの国の空か」というもの。どこかにヒントがあるのだろうか?なんて思ってはいけない。自らの雑誌タイトルにも反し、どこにもヒントなどない。本当に超能力テストなのだ。超能力がなければ、全く楽しめない。ちなみに、答えはポルトガルだった。きっと、「POSITIONING TEST」なんてのも、適当につけているはず。ここらへんにくると、凄みさえ感じる。

パルコ出版から1979年に出ていて、月刊ビックリハウスの流れにある雑誌らしいが、なかなかにここまでダメな雑誌は見ない。ここまでくれば、そのダメさ加減が逆に貴重である。蛇足だが、これでも面白い拾いものもある。特集1「ぶらさがり…」のつのださとしさんのイラストは都会的なユーモアセンスがあった。また、山口百恵に関する記事で著名人にアンケートをしているところでの手塚治虫の答えは、今日の彼自身のイメージを正面から叩き崩すもので、驚かせる。「百恵にはどんな時、どんな場所が似合うか」という問いに、「服をびりびりに破られて、地下室の隅でふるえているところが見たい。」と答え、続いて「最後に山口百恵に一言」でも、またまた懲りずに「…かよわく成熟した女で、いじめられる女を見たい。」なんておっしゃっている。まあ、先生も激務にお疲れだったということにしておこう。ということで、今回は600円くらいだろう。

2005/10/22

『ぺてん師列伝 あるいは制服の研究』 種村季弘



本の最後にある、他の著書の紹介を見てみると、シリーズ名が「種村季弘のラビリントス」と題されてあって、『吸血鬼幻想』、『薔薇十字の魔法』、『壺中天奇聞』、『パラケルススの世界』といったタイトルが並んでいる。種村季弘の名前は知っていたが、不勉強だったので、この人は澁澤龍彦みたいな人なんだろうと勝手に思っていた。なので、先のタイトルを見て、まあこれじゃあ仕方ないとも思ったが、そんなことでは稲垣足穂なんかも一緒くたになり何がなんだかわからなくなってしまう。どちらにしろ読んでないのはよくない。

どうしても、澁澤龍彦がまとわりついてか、目次を見て、一項目ごとにテーマに一貫した話が書かれていると思ったが、目を通してみるとそうではない。初出はユリイカで1981年に連載されていたもので、2、3回で一つの話になっている。

1つ目の話「ケペニックの大尉」は、こう始まる。

一九〇六年十月十六日午後一時すこし前、ベルリンのプトリッツシュトラーセ駅の方からやってきた一人の制服の大尉がプレッツェン湖水泳プール訓練場所属の哨兵小隊の一行を呼びとめた。下士官が一人、兵隊三人の小隊編成である。
(p.9)

語り口は、緊張感ある当時の状況を感じさせ、この話が何かはわからずいきなり事件に巻き込まれる。なかなかうまい。コロンボ的展開といえば、それまでだが、本編ではその効果がうまく使われている。この話の中心は、始まりで「一人の制服の大尉」であるウィルヘルム・フォイクトである。だが実は彼は大尉でもなんでもない。ただのうだつの上がらない小市民である。その小市民が制服の力により、とんでもないぺてんをやらかすのである。事件そのものがとても面白く、題材がいいとも言えるが、種村季弘に感心してしまうのは、その扱い方である。読み進むにつれて、この一事件から話がうまく膨らんでいき、難解な印象を受けずに、歴史や社会構造の話まで聞かされてしまう。どこかで四方田犬彦が澁澤龍彦の文章について、難解な言葉を使いながら、とてもわかりやすい、というようなことを書いていた。もちろん少し趣が違うにしろ、この指摘は、種村季弘にも当てはまるかもしれない。

やっぱり良かった、という印象だが、たいてい前もっての期待があると、落胆が大きいもの。期待にそぐわぬというのは、すごいことである。岩波現代文庫から新刊でも出ていて1050円で買えるが、こっちはハードだし、装幀もこの方が良い。装幀家の名前は見あたらないが、裏表紙に「Eureka」とあるから、雑誌「ユリイカ」で使われていたものを使ったんだろう。裏表紙の見返しに読んだ人のサインがあるが、これもまた良い。横顔のイラストと謎のアルファベットが並ぶ。マジック・ペンの迷いのない筆跡からみて、ただ者ではない予感もする。もちろん、ただ者の可能性も高い。んー、内容がいいから1200円くらいだろう。

2005/10/21

『ムツゴロウの絵本』 畑正憲

  

ムツゴロウこと畑正憲さん。最近はしばらくみないが、この本なんかを読むと、さすが一つの王国を築いただけはあると納得させられる。全部で4巻あるのだが、家にあるのは、1〜3巻。無理に4巻を手に入れようかとも思ったが、いきなり4冊まとめて買う人はいないだろうし、ムツゴロウさんの狂気ぶりは一冊でも十分伺える。文庫なら手に入りやすいし、気に入ったら他も買いそろえてもらいたい。

絵本というだけあって、白黒ながらなかなかインパクトのある写真の合間に文章が書かれていて、たまに入るムツゴロウさんのイラストがホッとさせる。手元の3冊の中では、特に2巻が気にいった。その名も<ヒグマの巻>。ムツゴロウさんがヒグマを子どもの時から育てていく。写真の多くはヒグマとムツゴロウさんの2ショットで、まだ小グマの頃は微笑ましくみていられるが、途中から心配になってくる。ちょっとムツゴロウさん、見出しで「大きくなったなあ」なんて感心してる場合じゃないよ。食べられてない?とついツッコミを入れたくなる写真も多い。数年前、ライオンか何かにムツゴロウさんが小指を奪われ、ちょっとニュースになったが、そのときまで指が揃っていたのが不思議だ。そして、ハラハラさせながらもラストは、ヒグマに乗ったムツゴロウさんの写真に「ヒグマに乗った 長年の夢を果たした…」と始まる詩がついていて、なかなかうまくおさめている。

1巻が1972年に出て、一年弱で2巻が出、そのあと1年半ほどで3巻が出ているのに、定価は950円、1000円、1600円とジャンプアップしているのも気になるところだが、全部700円でいいだろう。2巻は、背の下の部分に少しシミ跡があるが、2巻は目玉な上に、表紙はヒグマのアップなこともあり、あまり気にならないので、同じく700円にしよう。