8月24日(土)、世田谷文学館にてワークショップ「ものがたりとの出会い方」を開催しました。
伸びやかな夏の午後、想像力あふれる本たちと向き合うひとときのようすをレポートします。
(前半は鬼島の担当でお送りします)
さて、今回のWSは9月17日(月祝)まで世田谷文学館にて開催中の企画展、
「宮崎駿が選んだ50冊の直筆推薦文展」の関連企画でした。
宮崎駿さんが今回薦めているのは、岩波少年文庫。
児童書の名作を数多くラインナップするシリーズです。
ブックピックオーケストラのWSも、おもに子どもたちに向けて、
お気に入りの岩波少年文庫と出会い、読んでみるための提案として催されました。
概要をざっと説明すると・・
ちょっと変わった切りくちからそれぞれ1冊の本を選んでもらい、
選んだ本を少しの時間、読んでもらいます。
それをくり返し、合計3冊の岩波少年文庫を手にとっていきます。
ちょっと変わった切りくち、とは・・
「地図」
「挿絵」
「文章」
の3つ。
「地図」では世界地図にプロットされた場所から、
行ってみたい場所を選んでもらいます。
場所を選ぶと、その場所が物語の舞台となっている本にたどりつきます。
「挿絵」は、場面や登場人物を意識して選んだ「挿絵」が
カードになっていて、そこから1枚選んでもらいます。
カードを選ぶと、その挿絵が載っている本にたどりつきます。
そして「文章」では、本から引用された印象的な一節を選び、
本と出会います。
・・・午後2時。いよいよWSのはじまりです。
子どもたちとそのお母さんたち、合わせて20名以上が参加してくれました。
まず最初は「地図」から行きたい場所を探します。世界地図にプロットされたポイントを見比べながら、どこに行こうか、悩みどころ。ピンのマークによって、街が舞台、森、冒険もの、不思議な話と分けてもあります。
選び終えたら、部屋を移動。庭園の見える、広々と明るいスペースで、ゆったりと選んだ本を読みます。
椅子を持って窓際に移動する人も。
本を選ぶときはワイワイガヤガヤだった子どもたちも、こちらが驚くほど集中して本を読んでいました。
1回あたりの読書時間は15分ほどしかありません。
読書時間が終わると、その本の印象を記録してもらいます。
物語の入り口をのぞいて、その先へ進んでみたくなる一冊に出会ってくれていると嬉しいのですが・・。
1回目が終わり、さてつぎは「挿絵」で本を選びます。
この日のために用意された挿絵カードを見比べ、直感で1枚手にとって、その挿絵の入った本を受け取ります。
地図ではずいぶん迷っていた子どもたちですが、今度は多くの子が感性に従って素早く選んでいき、大人のほうが迷っていました。
本を受け取ったら、今度はゴザの上にみんなで座って本を読みます。
観覧の方々も一緒になって、しばし本と向き合うひとときを。
見学のみなさんにも挿絵から本を読んでもらいました。
本を読む環境が変わると、本との距離感も変わって、違う印象を受けたりするもの。
また、「本を読むためだけ」の時間をもつことも、なかなかふだんの生活のなかではむずかしかったりもします。
今回のワークショップでは、こんなふうにして、本の選びかただけではなく、本との付きあいかたについての提案も織り交ぜていきました。
・・そしてワークショップもいよいよ佳境、3回目の選書と読書の時間に向かいます。
(ここからは、益子(陽)の担当でレポートをお届けします)
最後は「文章」を手がかりに本を選びます。本から引用された文章が壁一面にずらりと並びます。
大冒険を予感させる言葉、ちょっと不思議なセリフ、はたまた児童書とは思えない哲学的なものまで。
わくわくさせられるような言葉ばかりでした。
最後の読書は1回目と同様、庭園から光の射す広いスペースで行いました。
長丁場にわたるワークショップで、参加した子どもたちも飽きてしまうのでは。
…なんていう不安も、本を開けば一瞬にして消えてしまいます。
15分前後のわずかな時間ながら、じっと集中して物語の世界に浸ってくれました。
しんと静まりかえった会場に、ゆったりと流れる時間。
あらためて、本とすごす時間の豊かさを感じられました。
読書時間も終わり、ワークショップの最後には、お土産に岩波少年文庫の初期カバーデザインでオリジナルブックカバーを作りました。
今の岩波少年文庫は、どれも物語を予感させてくれるようなかわいらしい装幀画に彩られていますが、初期の美しい模様もどこか懐かしくて、見ていて飽きません。
みんな一心不乱にブックカバーを折りこんでいました。
子どもたちには、普段とは違った入り口から本を選んでもらい、ガラス張りの広いスペースや靴を脱いで上がるゴザの上、といったさまざまな環境で本を読んでもらいました。
このワークショップを通して、実は本の選び方や本とのつきあい方には決まった答えなんかなくて、それぞれが本の楽しみ方のひとつであるということを感じてもらえたんじゃないかなと思います。
これをきっかけに、これからも子どもたちが「ものがたりとの出会い方」をどんどん広げていってほしいです。