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第4回:「よーい、ドン!」
暑さも落ち着いて、ずいぶん過ごしやすくなりました。高くあおい空に、絵筆で描いたような白い雲。やさしい虫の声。頬をかすめる風にも秋の匂いが混ざります。気合いを入れて何かをスタートするには、もってこいの季節です。 

11人いる!

『11人いる!』
萩尾 望都
小学館文庫

<次の“どん”のための“よーい”> 選:功刀店員
この萩尾望都さんの名作SFまんがは、私にとって心に勢いがつく1冊です。人は心の中で日々小さな「よーいどん」を繰り返しています。ちょっと落ち込んだとき、参ってしまったとき、ずっとうずくまっているといざチャンスが来ても駆け出せません。でもこの本を読むと、目線は高く心は外へ向かっていきます。これでいつ“どん”が来ても大丈夫。

ポートレイト 内なる静寂

『ポートレイト 内なる静寂』
アンリ・カルティエ=ブレッソン
岩波書店

<愛すべき記憶と決定的瞬間> 選:松尾店員
写真の神様と言われるHCB。私たちの身に、常にまとわりつく世界を切る。そのとき、その瞬間、その1/125秒。この世界で現実に起こった、まるで魔法のような写真たち。ほんの一瞬しかありえなかった奇跡。ブレッソンはじっと見つめて、待って、撮って、一枚の写真にした。切り止まることではじまる物語を、そっと優しく包み込んだ写真集。

プレーンソング

『プレーンソング』
保坂 和志
中公文庫

<そんな気分じゃなかったら> 選:平尾店員
この小説には、「よーい」も「ドン!」も、同じスタートも同じゴールもありません。登場人物全員が各々好きな方角に向かって、自分の速さで歩きます。途中で誰かと歩調が合うこと、同じ時間を共有できることって何て素敵なんだろうと思わずにはいられません。著者独特の語り口に、いつの間にやら自分も登場人物の一人になったような気がします。

垂直の記憶

『垂直の記憶』
山野井 泰史
山と渓谷社

<つっぱしる偉大なクライマーの話> 選:小林店員
山が好きです。でもこの本を読むと、自分の「好き」のへなちょこさを痛感させられます。山野井泰史さんはおそらく日本で一番、山に登りたい人なんじゃないでしょうか。すごい人の精神というのはどうやっても理解しがたいものがありますが、山への強い想いとそれとは対照的な素朴で簡潔な文章に、くらくらするほどの圧倒的に強い精神を感じます。

MAJICAL TRANSIT DAYS

『MAGICAL TRANSIT DAYS』
在本 彌生
アートビートパブリッシャーズ

<地球に魔法をかける歩き方> 選:鬼島店員
在本彌生さんは、世界中を「移動」しながら写真を撮っている。夜の遊園地、アコーディオン奏者、ガンジス川の沐浴、眠るサイ、ベッドでタバコを吸う女の子、手を差し伸べているような宇宙飛行士の抜け殻。ページをめくるたびに、何万キロと離れた土地で切り取られた何かと目が合う。まるで、世界に偏在する秘密へのガイドブックみたいな写真集。

木曜の男

『木曜の男』
G.K.チェスタトン(著)
吉田 健一(訳)
創元推理文庫

<悪夢のような追いかけっこ> 選:川上店員
奇妙なタイトルに惹かれ、気づいたときには始まっていた逆説の連鎖。追いかけていると思っていたら、その実、追いかけられているといった眩暈のする展開。一つの謎が解けるその刹那、あなたの背後にさらに大きな謎がパックリと口を開きます。行間に浮かび上がる深い思想とユーモアに仕掛けられたチェスタトンの罠にはまるすばらしき愉悦をぜひ。

ここち 4号

ここち 4号 9月29日発行
にて掲載されました。

毎日新聞ホームページにて内容を閲覧できます。

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