いしいしんじ(20040814sat)

新幹線、特に夜の列車にひとりで乗ると、妙におとなになった感じがします。仕事をはじめても、ボーナスをもらっても、どうにも実感のないおとな感が、鮮やかにわいてきます。家族旅行は必ず車で、東京から静岡の3時間はいつものこと、8時間かけて神戸、10時間の金沢、ほぼ無限に思えるような鳥取砂丘の先までも車で行くので、自分で旅行するころまで、遠くに行く電車にほとんど乗ったことがありませんでした。守られている車の旅ではなく、ひとりで遠くに行くための乗り物。それが新幹線。だからあの流線型を見ると、早そう!遠くにいける!なんて今も断然興奮するし、「のぞみはかなう。」なんて、ただの乗り物のくせに大仰なコピーも、ちょっとぐっときちゃうのです。どこかとおーくへ、いーきたーあいー、という、人間の本性みたいなものが、騒ぎます。

おとなの新幹線には文庫本です。今回の掛川−東京間の移動に用意されたのは、駅構内で調達したいしいしんじ「ぶらんこ乗り」。気になったけれど手を出せなかった物語作家の文庫本。絵本/童話というジャンルの「かわいければ/泣ければオッケー」みたいな甘さとセンチメンタリズム、説教臭さがひっかかって、その類なのか違うのか手を出せなかったのだけど、ちょっと、違いました。

年相応で健康的な姉と、飛び級クラスの天才少年だけど声を失い、木にとりつけられたぶらんこの上で動物の物語を書きとめながら眠る弟のお話。どこがどうよかったか、逐一説明すると文章力欠如のせいで説教臭くなっちゃうからやめますが、いちばんどきどきしたのは、近いけれど実はよく知らない、きょうだいの関係がとてもくっきり浮かび上がっていることです。

幼いときはわたしと3歳下の妹の境界がよくわからなくてけんかをしたり苛々したりしていたけれど、あるとき「わたしには妹がいるけど、妹には姉がいるんだ」と立場の相対性が実感できて、それから風通しがよくなった、いちばん近い他人。歴史的にいろんなことを共有しているけれど、あるいはだからこそ今のところ友達より深い話をしたことがないきょうだい。その間にある甘えとか、理由のない大事にしたい気持ち、そういうものが、主人公の女の子の言葉から、すごくよくわかります。そのほかにも、小説中の弟の書きとめる物語に、なるほど、とか、いたいなあ、とか、よいなあ、と何度も納得しているうちに、今回も無事に遠くまで運ばれました。(山田)

リンク/趣が違って、これまた素敵です。
いしいしんじ「ごはん日記」
http://www.mao55.net/gohan/




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