舌出人形(20040401thu)

 「あっ!!」とブックピック仕入部長の川上が、服を引っ掛けて床に落ちてしまったのは、ぼくらが「かみさま」と呼んでいる人形です。在庫の本棚の上に置かれたその人形は陶器でできているため、落としたはずみにパッカリと首が取れてしまいました。ガックリと凹む川上。とはいえ実はこれ、以前にすでに一度ぼくが割っていて、くっつけていたその部分がまた外れただけなんですね。影絵のメンバーと一緒に1万円札を4枚持って、その日の公演のつり銭をつくるために目の前の古道具屋で買ったもののひとつなのですが、割ったのはその後、ものの5分もしないうちです。つまり公演直前だというのに不吉なことをしたのは他でもないぼくなのですが、ところでこの「かみさま」、じつのところ詳細はまるでわかりません。古道具屋で100円でころがっていたものですから無理もありませんよね。手がかりはただ一つ、底に書いてある「舌出人形」の文字です。

 というわけで、さっそくグーグルで検索してみると、いくつか引っかかるのはなぜか、すべて同じ文章中のもののようでした。「舌出人形の赤い舌を引き拔き、黒い揚羽蝶(あげは)の翅(はね)をむしりちらした心はまたリイダアの版畫の新らしい手觸(てざはり)を知るやうになつた。而してただ九歳以後のさだかならぬ性慾の對象として新奇な書籍――ことに西洋奇談――ほど Tonka John の幼い心を掻き亂したものは無かつた。」…なんと、北原白秋ではありませんか。白秋の第二詩集「思ひ出」の長文の序、「わが生い立ち」の一部分です(青空文庫で全文が読めます)。白秋といえば音楽の授業で何度も歌った「揺籠のうた」「まちぼうけ」「ペチカ」などの歌詞はもちろん、マザーグースの訳でも有名ですが、こんな美しい自伝があるとは知りませんでした。これだから、ネットサーフィンはやめられません。

 ちなみに「舌出人形」について他に分かったのは、長崎や佐賀などで作られている民芸品であることと、江戸時代につくられた仕掛けの抱き人形がオリジナルであること。ぼくらのところにあるのは、白装束のようなものに身をまとって長い帽子をかぶった老人で、ちょっと斜めにするとぺロッと舌を出します。誰か具体的な人物をモデルにしているのかどうかは結局分からずじまいでしたが、買った当初から誰もが疑いなく「かみさま」と呼んでいたこの人形、きっとこれからもぼくらを見ていてくれることでしょう。そういえば今日はエイプリルフール、ついた嘘になんとなく舌をベーっと出す仕草が似合いますが、それはさておき。取れた首をまた丁寧にくっつけて、同じように大切に飾っておくことにします。(内沼)


 

用語集トップ