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中央線(20040111sun)
あまり人生一般に対して文句はないというか、結構ぼんやりしている性で、ものの好き嫌いをはっきりしない(させない)種族に属しています。けれどもやはり我慢できないものはあるわけで、それを挙げるとすれば、2つ。
1つはまずいものを一人で食べることと。もう1つは満員電車に乗ること、です。
ちょっと道徳主義的な馬鹿な大人みたいで嫌なんですがこの二つのことを私は「たましいをきずつけること」とひそかに呼んでいて、人間として許せない、というレベルまでこの二つのことを毛嫌いしているわけなんです。たぶん、じっとだまってすごく嫌な状況に耐えている姿がニンゲンのタマシイをぎざぎざにさせるのだと思っているのでしょう。
最近、1週間弱ほど中央線沿線に滞在していました。その間ほとんど滞在場所にこもりっきりだったんですが、ある正月も明けた平日の朝にどうしても出かけなくてはならず、乗りましたよ。あのオレンジの電車に。
東京駅までの30分間はほとんど懐かしのちびまるこちゃん状態(顔に線が入る)でした。電車に乗る人乗る人が怒りオーラを満載にしてぐいぐい押し合い、停車駅のホームで私の荷物は蹴り出されたりしました。一人一人話すときっと悪い人じゃないのにどうしてこんなに恐ろしい顔でいるだろう。朝なのに。とか思いながら怒った顔の人たちにぎゅうぎゅうでもうげっそり。寿命が縮むとはまさにこのこと。でした。
いえ、これが本題ではないんです。確かに朝の中央線は酷い。というか、東京の通勤環境は大概において劣悪で、そこには、日本人の悪いところとか、都会の悲しみだとか、ベッドタウンの憂鬱だとか、年金の値上がりだとか、教師のセクハラだとか、もう悪いものすべてをひっくるめたものが内在していて、もはや絶対的な悪としか思えません。やっぱり私の住む所の基準は、電車が混まない所だわ。という決意を強くしたわけなんですが、そうじゃない普通時の中央線、あるいは総武線は結構好きだったりします。
くるりから唱歌(だったかな?教科書に乗ってそうな曲という意味で)までをカバーして歌った矢野顕子さんのアルバム「ピヤノアキコ」に「中央線」という曲が入っています。その曲は私の好きな中央線の要素そのままです。いなくなった猫を探しに出かけたまま恋人はそのまま帰ってこなかったとかいうちょっと村上春樹を思わせる(そういえば村上春樹は中央線がよく似合います。国立にいたからでしょうか。彼の小説には中央線の場面がよく似合います。ついでに言えば、保坂和志は西武線沿線(練馬とか)、吉本ばななは文京区か豊島区ってかんじ。あくまで、かんじ、ですが)歌詞と「走り出せ。中央線。夜を越え。僕を乗せて〜」というサビのメロディーは東京を水平に横切って平行移動するあらゆる電車のための曲のような気がします。
東京はいつだって、どこでもない「トーキョー」という形をぼんやり形作っては蜃気楼のように中身なく、たたずんでいるものです。それは多分、山手線があるからだとふんでいます。いびつな楕円を描く緑の環状電車はトーキョーをドーナッツのようにくり抜きます。そしてぐるぐると回ります。渋谷と新宿からは西の人、池袋、上野からは北と東の人、品川は南と西の人。そして東京、羽田は東西南北。成田からは異国の人。あらゆるジャンクションから人を排出し、飲み込んでは回り続ける山手線はそのうちぐるぐるまわりすぎてバターになるんじゃないかと思います。あのPC問題で馬鹿なことになった童話みたいに。そしてトーキョーとトーキョーの周縁のエキスを飲み込んだバターはトーキョー・バターとしてトーキョーをますますどろどろにしていくんです。どろどろになった真ん中にはキラキラ光るトウキョウタワー。不毛です。でもその不毛さも時に美しかったりします。
けれど電車とは基本的には哀愁の乗り物です。平行移動するもの。前に進むのではなくて、横に横に進みます。どこかへ。どこか遠くへ。
いつまでも回り続ける日常としての山の手線を、夜のしじまと一緒に横に切り裂いていくかんじが中央線に乗るかんじで、その濃密さが歌の「中央線」にも表れているわけです。なによりも中央線はたくさんの川をこえるのです。
いい曲だなー。だれの曲だろうと思って忘れていたのですがそれからしばらくして、小田和正があの平井堅ばりの(ベクトル違うけど)セツナ声であの曲を歌っているのをテレビで見ました。やっぱりカバーで。
本当は知りたくないな、誰がこの曲を書いたのか、と思っていましたがネットって嫌ですね。調べてしまいました。わかってしまいました。でもはっぴぃえんどの曲だろうが、さだまさしの歌だろうがそれは問題ではないんです。走り出して、どこかへ。東京駅で止まるけれど、お茶の水で乗り換えれば、川を越えてどこへだっていける。反対側だって行ける。夜の中央線。それなりに混んだ電車の中であれこれぼんやりしながら揺られて、どこかで降りること。毎日というルーティン。愛せないトーキョー。でもどこかへ。夜を越えて。(Bonne)
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