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荒川洋治さんの講演を聴きに行く。

きじまです。

昨夜、現代詩作家の荒川洋治さんの講演に行ってきました。
場所は神保町の老舗新刊書店、東京堂書店
(まつおさん、情報ありがとう!!)


新刊『読むので思う』(幻戯書房)の発売を記念して行われた講演で、テーマは「新しい読書」。
お察しの通り、現代詩についての専門的なお話ではなく(もちろん深い関係はあるのですが)、読書を取り巻く現状、読まれるべき本、読書という行為について、広く深く、ざっくばらんにお話される、というような内容でした。

すべての内容をまとめきるのは、能力的にも不可能ですし、仮にできても夜が明けてしまうのでしませんが、代わりにいくつか印象的な部分を紹介したいと思います。
なお、荒川さんの発言は記憶している限りで正確に再現しているつもりですが、多少違いが出てしまっていることを、あらかじめご了承ください。

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会場の席に着くと、そこにはB4で2枚のレジュメが。
1枚には何やらたくさんの書名と荒川さんのプロフィールが書いてあり、もう1枚は1965年に全巻が刊行された新潮社の「日本文学全集」の目録です。
数ある文学全集の目録のなかからこの版を選んだ理由として、荒川さんは、最後に個人名がタイトルに冠されているのが三島由紀夫であることを挙げられていました。「三島由紀夫が新人として出てきたころまでで、文学はもういい」というのがその理由。多少冗談まじりではありましたが。
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「身の回りにある、なんでもない言葉がちょっとだけ光りだしている」と言って挙げられたのが、意外?にも、缶コーヒー「ルーツ」の広告。坂口憲二扮するサラリーマンが一言つぶやくあれです。「満員電車のなかで身動きがとれないから、くだらないと思いながら仕方なく凝視していると、ちょっといいなと思えてくる」
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1枚目のレジュメにあった作品すべてに触れるには到底時間が足りませんでしたが、最初に挙げられた三名については、詳しくお話がありました。その三名とレジュメに書かれた著作は、
●大野晋 『日本語の起源 新版』『日本語の源流を求めて』岩波新書
●白川静 『字統』『字訓』『字通』平凡社/『常用字解』平凡社
●網野善彦 『増補 無縁・公界・楽』平凡社ライブラリー
「この三名は、遺した仕事の凄さの割には、一般に知られていない。何故か。それは、これらの仕事が1980年前後に発表されたものだから。」
「1970年代後半から、学生が本を読まなくなった。というか、大人の読書と変わらなくなった。それまでは、学生たちが意識的に大人とは違う本を見出して読んでいるのを、大人たちが気にすることで一般に膾炙していき、そこで学生はまた違う本を読む、という渦巻きが起こっていた。それが止んでしまったことが、これらの作品が埋もれてしまった原因です」
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新刊『読むので思う』のタイトルについて。
人は、「読む」から「思える」ということ。「もともと5種類ぐらいの感情のパターンを持っていないところを、本を読むことで70、80種類もの感情のパターンを学ぶことができる。だから、文学は『実学』なのです」
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詩と散文について。
「ヴァレリーが、詩は踊り、散文は歩くと言ったのは間違いです。詩は個人の言語で、散文は集団の言語。普通の小説などに使われる散文は、みんなに同じように伝えるため人工的に作られた、いわば『異常な言語』なのです。自分がその通りに知覚していなくても、そのように書けてしまう。誰も思っていないことが書けてしまう。危ういことばなのです」
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まだまだあるのですが、まとめ切れません。とにかくためになり、叱咤され、勇気づけられた2時間でした。

それにしても、荒川さんの喋りがあんなスタイルだとは! 緩急が絶妙で、ものすごく面白い。
ぐわーっと喋って、オチのところですっとトーンを下げる。そして時どき、反応を窺うように上目遣いで、ずり落ち気味の眼鏡ごしに会場をぐりっと見回す。
こう言っては失礼かも知れないのですが、とてもキュートでした。もっと朴訥な話し方をする人かと勝手に思っていましたが、完全に良い意味で裏切られました。
個人的には、イースタンユースの吉野寿さんのライブ中のMCに雰囲気が似ているなーと感じました。(あくまで個人的にですよ)


最後に新刊のブックデザインについて一言だけ。
帯がかかっていると、ネコの口元が隠れています。この状態だと、なんとなくネコは笑っていそうに思えるのですが(そう見えません?)、帯を外すと、実はちょっとむっつりした表情をしています。装幀した間村俊一さんの企みなのか、僕が勝手に見出しているのかは分かりませんが、にやりとしてしまいました。そんな装画はタタジュンさん。

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ちなみに新刊にはサインもしっかりいただきました。
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コメント (1)

まつお:

げー!
ちょううらやましいな
ねこは笑っているのかと思いました

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