第1回第2回第3回


U00084 太陽'67 11 日本の郷土玩具 / 平凡社 / 1967 / B / 800 購入方法

第3回:どこかへ、行きたくなったら。


目が覚めると、窓の外には小さな川があり、その向こうに何軒かの家が固まっているのが見えた。
「もうすぐ山梨やで」
ぼくが起きたことにすぐ気づいた恵太がそう言った。外では雨は小降りになっていたけれど、日没が迫っているのか曇り空は白から青っぽい色に変化していた、(柴崎友香『次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?』河出書房新社・2001)


ほんの2〜3年前に出てほとんど売れずさっさと絶版になってしまった本というのは、いわゆるちょっとした稀覯本なんかよりも、妙に手に入りにくいものです。気になって気になって、しかしどうしても手に入らなかったこの柴崎友香『次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?』。某氏の事務所に遊びにいったら、そこで働くKさんもどうやらまったく同じように必死で探したらしく、しかも見つけて持っているというではないですか!というわけで、借りてきてちびちび読んでいます。そしてついさっき、ぶつかったのがここ。友達と何人かで車に乗って、高速を走るちょっとした旅。騒ぎ疲れていつともなくつい眠ってしまったようで、目覚めて見渡すと他のみんなも眠っていて、運転している友達が話しかける頃には、違う風景が見えていることに気づく。些細だけれど完璧な幸せ。ちょっと妄想入ってますが、誰しもこんな経験、あるでしょう。国内のよく知らないところに、目的もなく数日行くことにしてみる。どんなに見慣れた仲間でも、どんなに見慣れたようなものを観ても、すべて本当はそこにしかないものばかり。うーん、いいなあ。ちょっと、どこかに行きたくなってきました。そこでまた『太陽』の出番。『太陽』の特集のテーマも大抵、「どこかに行きたい」気持ちに応えるものばかりなのです。「長崎」「山陰」「北海道」「長崎」といった地名モノ、「日光と東照宮」「法隆寺といかるがの里」「中尊寺と奥の細道」など具体的な名所モノ、そして「春のまつり」「スキーへの招待」やこの「日本の郷土玩具」のようなテーマモノ。さあ、どんな場所に連れていってくれるのでしょうか?

 日本は郷土玩具の宝庫である。雪ふかい北のみちのくから、光り輝く南の島々まで、細長くつらなる日本列島のいたるところに、その土地だけに産する材料を用い、その土地だけが伝える民俗や信仰にちなんで、その土地どくとくの玩具が、いうところの郷土玩具である。
 だから、郷土玩具を通して、ひとは、そこに語られる郷土の歴史を知り、そこに潜められた郷土の民俗や信仰にふれることができる。
 しかも、郷土玩具は、長い伝統に支えられたその色と形に、素朴な美しさをたたえてみせる。この、素朴だが、つきることのない美しさに、ひとは幼い日の記憶の底にねむるふるさとの土の香りを感じ取るにちがいない。(P4)


 こんな序文から始まる1967年11月号の特集「日本の郷土玩具」は、芳賀日出男(祭り・民俗・伝統芸能関係の写真家の第一人者で、本も50冊くらい出ています)による「東北の祭りと玩具」から始まり、水上勉・文による「古き庶民の味・伏見人形」、澤野久雄・文による「山峡に古き京・三春人形を生み出した土地」と続きます。そして、日本郷土玩具の会会長、その名も牧野玩太郎による「日本の郷土玩具百選」。北から南へと、全てカラー写真で紹介されており、別ページにひとつずつの解説もついています。ぼくの目に懐かしさとともにパッと飛び込んできたのが、米沢の笹野彫。やたらと目にした記憶があるのは、母方の実家が山形だから。きっと誰しも一つや二つこの中にこうして目につく郷土玩具があるのだと思うと、このページをいろんな人と眺めてみたくなります。そして、ちいさな実物を手にするただそれだけのために、ちょっとそこまで、と言って、車を出してみるのです。

 特集はさらに各地のこけしの話題や、長崎/東京/仙台/松山/高松/宇和島の郷土玩具の話へと続きます。そして連載へ。土門拳による「日本名匠伝」は野村万蔵。昨年、五世野村万之丞氏が八世野村万蔵を襲名とのニュースがありましたが、当時小学二年生の万之丞氏が教えを受けている写真もあります。渡部雄吉による「世界の古都」は最近ではEURO2004のスタジアムのひとつとして記憶に新しいポルトガル中部の街コインブラ。壇一雄の「地方美術めぐり」は太宰府と観世音寺。コラムコーナー「喫茶室」には故・3代目江戸屋猫八師匠による「架空の声の物真似も」や、和田勉「ドラマとは何であるか」、再評価の兆しの高い虫明亜呂無「なくなった奇跡のコンビ・女子バレー二人の天才」なんてのもあります。

 そして「太陽・ドライブガイド」。毎回地図つき・カラーでドライブの見所を紹介する連載で、この号はなんと「奥秩父から甲州路へ」。ルートこそ違えど、まさに約40年前の「もうすぐ山梨やで」なのでした。そういえば最近、ぼくも友達のなかに結婚して出産して、とかいう話がチラホラ出てくるようになりましたが、そうだ、郷土玩具を贈るというのもいいじゃないですか。牧野さんのリストを見てみましょう。えっと、山梨・甲府・・・「親子だるま」!いよいよいい感じになってきました。親子だるまを買いに、ただそれだけのために、ふらりと山梨まで。えと、誰か、一緒に行きません?ぼく運転するんで、寝てていいですよ。(内沼)