第1回 北尾トロさん(杉並北尾堂)
「自分で書いた本を自費出版するのは、はっきりいってダサいんですよ。」

この『一点突破』は古本に限らず、自分で何か面白いモノをつくっている人にインタビューをして、そのモノも一緒に売ってしまおう、というコーナーです。第1回目は同じオンライン古本屋の大先輩で、自分で出版もされている北尾トロさん。サイトに「インディー出版物も売ります」と書いておきながらなかなか動き出さない僕らを見兼ねて「ウチの本売らない?」と連絡をしていただいたという、なんともありがたい経緯で始まったこのインタビュー。本の内容についてはエキサイトブックスにやまだないとさんのインタビューが出ていますからそちらを参照いただくことにして、ぼくらは主に「インディー出版」ということに焦点を当ててお話を伺いました。

杉並北尾堂:http://www.vinet.or.jp/~toro/
やまだないと公式ホームページ[NUIT]:http://www.nuit.jp/

Contents北尾さんと『西荻カメラ』インディー出版について


西荻カメラ
/やまだないと(著)
/杉並北尾堂
20031800(新品)
買い方

■北尾さんと『西荻カメラ』

-----北尾さんといえばご自身のオンライン古本屋『杉並北尾堂』が有名ですが、この『杉並北尾堂』も最初は、ご自身の本を売るために作られたと聞きました。

廃本研究』っていう雑誌を作ったんですね。「コミケは結構本が売れる」っていうのを事前に聞いていたので、じゃあコミケで売ってやろう、っていう感じで1000部つくった。そしたらまぁ、100部くらいは売れたんですよ。で、900部残って困ったな、と。そこで周りから「じゃあ、ホームページで通販だよ」といわれて、それがはじまりです。なので最初は『廃本研究』がポツンと一つ、って感じで。

-----北尾さんは、それ以前からも出版社から本を出されていましたよね。その『廃本研究』を流通に乗せよう、という考えはなかったのですか?

本って、消えていっちゃうじゃないですか。思わぬ早さで。しかも、かといってそれは、ダメな本ばかりというわけじゃない。今の流通システムでは仕方がないんです。もの凄く良くできたシステムではあるんだけれど、編集がいて営業がいて、社長がいて社員が何人もいてそれで食っていかなきゃならない、っていう規模の、いわゆる出版社を想定してつくられている。だから仲間うちで、一人とか数人でやる場合には向いてないことが多い。例えば『廃本研究』のように1000部とかでそのシステムに乗せても、置いて欲しいような書店には並ばないし、誰の手に渡るのか把握もできない。それじゃ面白くないなぁと。

-----なるほど、それで今回の『西荻カメラ』も流通に乗せていらっしゃらないのですね。この『西荻カメラ』、製作にはどのくらいの期間かかっていますか?

2年。動き出してからは、8ヶ月くらいかな。

-----北尾さんのメルマガなどにもよく出てくる、サパナというお店で話がスタートしたんですよね。著者のやまだないとさんとは、もともとお知り合いだったんですか?

ないとさんは僕と同じで西荻に住んでいるんですね。で、ないとさんの家で忘年会みたいのがあったときに、知り合いの編集者がそれに呼ばれていて「行く?」と誘われて。そこで知り合ったのが最初かなあ。で、近いんで、そのうちお互い「ちょっとお茶でもしませんかー」っていう感じになって。その後、ぼくが期間限定のブックカフェをやっていたサパナで、ないとさんも「パリのお土産展」っていうのをやったりしていて、それでその頃「本作りましょう」みたいな話になり「じゃあやりましょう」となりました。

-----最初は「ホントとウソが混じった西荻のガイドブックみたいな本をつくろう」という話だったそうですが、たとえばどんなウソを考えていたのですか?

結局、これ(完成した『西荻カメラ』)もそんなに変わってないんですよ。ウソばっかりなんです。例えばここに出てくる象(→)、これをウソだと思ってる人がいるけど、これはホントにあるんですね。

-----確かにこれは、ウソみたいですね。唐突だし、何のためにあるのかわからない。

駅を出てすぐのパチンコ屋のところにあって、ぼくも何なのかはよく分からないんですけど。で、途中で善福寺サーカスっていうのが出てくるんですが・・・(パラパラめくる)あ、あった、これ(↓)はウソ。

(c)やまだないと


(c)やまだないと


-----これ、信じちゃう人いませんか?(笑)ホントもウソも混じっている本だ、っていうことは、この本のどこにも書いてないんですよね?

よく考えてみてよ、こんな建物あるわけないじゃない!(笑)どこにも書いてないんだけど、この表のビニールのところに、駅前の「富士そば」の後ろにデーンと、タワーが建ってるわけです(↓)。これはあからさまにウソだろう、ということで「あ、ウソばっかりの本なんだ」と気づいて欲しかった。ところがこれがまた、妙にキレイにできちゃったんだよなぁ(笑)。西荻を知らない人にとっては分からない。「タワー探しました」っていう問い合わせが1件来て、これはちょっと、しまったなぁと。



(c)やまだないと


-----ほんとだ!(笑)『西荻カメラ』っていうタイトル通り、写真をつかって本としても色々遊んでみている、というわけですね。この付録の「見えたら消える!?日光写真セット」というのもうれしいです。

そう、これもオチとしてというか。特にこの青焼きは、すぐに消えちゃうんですよ。その消えちゃう感じが、ウソばっかりの代わりというか。分かるやつには分かるだろう、と。


■インディー出版について

-----次に、インディー出版ということ自体について伺いたいと思います。DTPの普及などを背景に、個人でも本を出すことが簡単になりました。本を作りたい、という人も確実に増えているように感じます。

これはぼくの考えですが、自分で書いた本を自費出版するのは、はっきりいってダサいんですよ。文章を書くのと編集をするのは違う。素人だったら、どちらか一つでさえ危ういわけです。その人が両方自分でやろうとしたら、負けるのは目に見えている。

-----負ける、というのはどういうことですか?

本屋さんに持っていくからには、そこに並んでいる他の有名な人の本と並ぶわけです。そこで買ってもらうためには、最低限クリアするレベルっていうのがあって、そのレベルに達するためには、ものすごいエネルギーを使う。例えば出版社に持っていってダメだといわれたとしましょう。その断られた理由が、そのレベルに達していなかったからだとしたら、そこで自費出版してもはっきり言って勝ち目がない。よっぽど営業のセンスがあるとか、デザインが良いとかだったら別ですけど。

-----とりあえずホームページをつくる、という方法もありますしね。書きたいのならば、まずはその技術とかセンスとかを磨くことにエネルギーを費やすべきだということですね。

そうです。で、インディーでいわゆる本を作りたい、出版をしたいのなら、最初はもう頼みたいプロの人のところに、ダメもとで行けばいいんです。もちろんぼくは本職がライターだから、著者のないとさんもある意味業界でつながっているし、デザイナーもたくさん知ってて選べる、という意味で、有利なことは間違いない。けれど、「こういうことがやりたい」っていう企画がしっかりしていて、「自分のところで出すとこういうことができる」っていうところをきちんと示せれば、誰でも動かせると思うんですよ。
狭い仲間内でちょっと文章が書けるやつを引っ張ってきたって、名前がなければよっぽどのことがない限り売れない。それを続けていても、いつまでもそのままのレベルになってしまうんです。だから、いきなりある程度の人のところにいかないといけない。「どうせダメだ」と諦める前に、やってみればいい。すごく名の通った人でも、若造にかつての自分を思い出したりして、悪い気はしなかったりする。もちろん現実はキビしくてそう簡単ではないから、インディーで書籍をやっているところは少ないですよね。雑誌の場合はまたちょっと別です。みんなで作ること自体がお祭りみたいなもんで楽しいし、広告という方法がある。もちろん景気がよくないから厳しいけれど、それでもうまくやれば、売る前から広告収入でトントンになっている、というようなことができる。その点、書籍は難しい。だから僕は、糸井(重里)さんがほぼ日で単行本を作り、取次を通さずに売り始めたことが嬉しいんです。目標として、良いじゃないですか。みんな糸井さんを見て、真似できるところを真似すればいい。

-----今回の『西荻カメラ』の場合は北尾さんが、ないとさんとデザイナーの方を、うまく巻き込んでいったわけですね。

名の通っている人にとって、いわゆる出版社で出せる内容であれば、それはそこで出したほうが絶対にいい。ないとさんだってもちろんそうで、もう、本当に忙しい人なんですね。だから、そういういわゆる出版社では出しにくい企画を考えるんです。僕はずっとないとさんの文章を凄く良いと思っていて、だけど彼女の場合は漫画家な上、照れ屋で恥ずかしがってしまうというのもあって、漫画以外のものはなかなか出すのが難しかったりする。あとこれみたいに、漫画なのにハードカバークロス張り、みたいなこともなかなかできない。これはデザイナーにとってもそうです。ドラァグクイーンの本からずっと、米谷さんという人にお願いしていますが、プロだからこそ普段の仕事には制約があってストレスが溜まっていたりするから「それなら金で箔押ししたい!」となるわけですね。マンガとして考えると1800円というのはすごく高くて、ないとさんも「女子高生の読者もいるから」とか値段のことはずっと心配していたんですけど、出来上がったモノを見せたときには納得してもらえたし、結局モノとしてしっかり作れば買う人は買ってくれる。結局、初刷の2000部は在庫切れで、もう2000部増刷をかけています。インディーで本をつくるっていうのは、いわばお金のかかる遊びですから、楽しくやらないと損じゃないですか。

------そしてその「お金」が最もかかってくるのが、印刷・製本という過程だと思います。企画が固まって中身も出来上がってきた時、それまで本をつくったことのない人が最もつまずく部分がこの過程だと思いますが、個人で出版しようとする場合、印刷所はどのように選べばよいのでしょうか。

印刷の代金は、どんどん安くなっています。そこら辺にある本を見れば、どの印刷所で印刷したか、大抵書いてあるんですね。それを見て、いくつかに電話をかけて見積りを出してもらう。こっちは素人だしお金もないのでうるさいことは言いません、と最初にはっきりさせた上で、これこれこういうものを作りたい、というある程度のイメージを伝えたら、あなたはプロなんだからあとはそっちでできるだけ安く出来る方法を考えてください、と任せてしまえばいいんです。印刷屋さんも不景気で仕事は欲しいし、リピーターになってもらえれば長い付き合いになるから、それでぼったくられることはまずない。コミケ周りでは一時期そういう話もあったようですが、今はそういうのはもうほとんどないと思います。必ずアイミツ(いろんなところから見積もりをとって比べること)を取るようにすれば、万が一そういうことがあっても分かるし。

-----そして本が出来上がると、いよいよ営業ということになります。

僕は営業のセンスはないんです。ほんとだったらもっとやれなきゃいけないんですけど。だからそういうのも、チームを組んで役割分担ができるといいですよね。編集をするやつは中心になって企画を立てて、あとはそのチームがうまくいくように、一緒に遊ぶような感覚で人間関係をつくっていく。営業も、自分たちがここに置きたいと思うお店をまわるんだから、楽しんでやれればいいと思います。あと、断ることも自由ですから。

-----自分たちの置きたいところ以外には置かない、というのも、インディーだからこそできることですよね。そうやって本屋に並ぶところまで、しっかり考えてつくっていきたいですね。

そう、一冊の本がここにあったとして、それは内容だけに値段が付いているんじゃないと思うんです。紙に印刷されてこうして物体として形になって、そのときに初めて値段が付く。その状態で本屋に並んだとき、周りの本と比べて本当にその値段に見合う価値のあるものかどうか。これからやろうとする人には、インディーとはいえ、きちんとそれを考えて本をつくって欲しいと思います。

(聞き手:内沼晋太郎、川上洋平)

西荻カメラ/やまだないと(著)/杉並北尾堂/20031800(新品)買い方