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2007年09月 アーカイブ

2007年09月16日

チポリーノの冒険

きょうは、ちょっと珍しくイタリアの本をとりあげます!
児童文学でイタリアのものはあまり聞いたことがないと思うのです。

これがジャンニ・ロダーリの書いた「チポリーノの冒険」です

tiporino

杉浦明平さんの訳で岩波少年文庫に入っているのですが、かなしいことに、どうやら絶版のようです。とはいえ古本屋さんに行けばみつかることもあるので、ぜひ探してみてください!この表紙が目印ですよ!

この本に人間は出てきません。
ちょっとだけ動物が登場、あと出てくるのは 『野菜』 たちばかりです。
そう、主人公のチポリーノも、タマネギという意味のチポッラから名付けられました。
彼は勇敢なるタマネギの男の子なのです。表紙で右端にいるのが彼です

人間は出てこないとはいえ、描かれるのは人間たちのとそっくりな社会。
レモン大公という暴君がのさばり、無実な人民は苦しんでいます。
しかし、レモン大公に仕えるトマト騎士や、サクランボ伯爵夫人が理不尽な圧制を強いるので、人民たちはレモン大公に立ち向かう力を蓄えられないでいるのです。
不正によって持つ者が私腹を肥やし、持たざる者が痛みをこらえる。

聞くところによると、イタリアの人民は国に全く期待していないと言います。
だからせめてものなぐさめに生活を楽しむのです。彼らの陽気さは、本来の国民性では無いそうです。

チポリーノのお父さんであるチポローネも、トマト将軍に捕まり、牢屋に入れられてしまいました。
哀しむチポリーノに父は語ります。

――牢屋というものは、泥棒や人殺しのためにつくられたのだ。が、レモン大公が国を治めるようになったときから、ぬすみや、人殺しをするものが宮廷にいて、牢屋には、りっぱな市民がはいっているんだよ。
――わたしは、おまえが自分のものをもって、勉強しに世間へ出てゆくように望んでいるよ。ただ一つのもの、つまり悪者のことを勉強してごらん。だれかとてもいばっているひとに出会ったら、しっかりその男のことを研究してみるがいい。

チポリーノは父と抱き合い、涙をふいて、悪者たちの勉強をしに、勇んで世間へ立ち向かっていくのです。
そして彼は誠実に悪者たちと戦います。
勝ち目はほとんど無いけれども、歯を食いしばって誠実に戦います。
人民を、父を、助けるために。

これはそんな切ない話しなのです。
そういえばタマネギは臭いし、貧しい食卓によくあがるものですよね。対してレモンやトマトはお金持ちの食べるものです。

けれどもこれは愉快な話でもあるんですよ!
登場人物たちがユニークな野菜だし、ところどころに突飛な描写が出てくるんです。

表紙にいる野菜から説明すると、左にいるのはサクラン坊や。
駄洒落がきいているでしょう!
彼はサクランボ伯爵夫人の甥なのですが、愛の無い厳しい躾のため、とうとう病気になってしまいます。友だちがほしくて寝込んでしまうのです。
そこに現れたチポリーノと友だちになり、生まれつきの賢さでもって敵を出し抜きます。

表紙の真ん中にいるのはカブ子です。

他に、イチ子という女の子も、チポリーノの冒険を助けます。
むろん彼女はイチゴです

考えを必要としたときには必ず錐で頭をかく、靴屋のブドウ親方。

いっしょうけんめいレンガを倹約して家を建てたのに、その家がものすごく狭くて、身を縮めて座っているうらなりカボチャのおじいさん。

愛器はナシのヴァイオリンである、ナシノ木ナシ男教授。

他にもたくさんのユーモラスな登場人物が現れ、
物語りを盛り上げてくれます◎

さいごに、チポリーノから日本の子どもたちへの挨拶文を引用しておきます。
なにしろとてもすてきなものですから!

 歩け、歩け、どんどん歩けと、歩いて、とうとうぼくは日本に到着しました。日本では、火山が煙を噴きだしてうなっている一方で、サクラの花が咲いています。  火山とかサクラとかいうものがどういうものであるか、ぼくは知っています。なぜかといえば、ぼくらのイタリアでも、火山はごうごうなってそびえ立っているし、木々は一生けんめいに花を咲かせるからです。

(略)

 この物語をみなさんが喜んでくださるよう、心からねがっています。ぜひみなさんを笑わせたいと、ねがっています。花は咲いているときに美しいものですし、子どもは笑っているときに美しいものです。

(略)

 ぼくの物語には暗い事件もあります。そういうことをお話ししなければならないのは、いやなことです。が、ぼくはそうしなければなりません。真実をかたるのはぼくの義務だからです。みなさんとおしゃべりできるように日本語を習ったか習わないうちに、みなさんにまっかなうそをいうためにみなさんの美しい国語を利用したら、とんでもないことでしょう。

(略)

 さあ、ぼくの物語がはじまります。この物語が、みなさんのすでにごぞんじのすばらしい物語の中の、片隅なりとも、席を見つけられるかどうか、だれにもわかりません。
 どうかぼくがみなさんを愛するように、みなさんもぼくを愛してください。そしてぼくがみなさんのお国を愛するように、みなさんもぼくの国を愛してくださるよう。

 チポリーノ

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