あしながおじさん
ところで読者のみなさまに質問です
『レモンゼリーのプールで泳げるかどうか?』
『完全な球体であるところの鏡の中に入ったら、どこまで自分の顔が、どこまで自分の体が映るのか?』
なかなかの難問ですね!
ジューディはカレジの夕食にて、こんな知的興味あふるる話題を、仲間たちとわいわい繰り広げていたのです
もちろんジューディとはジルーシャ・アボットの可愛い仇名。
けれどもジルーシャは、ジューディという仇名を自分で考え、自分につけねばなりませんでした
何故ならジルーシャ・アボットは孤児であり、家族も友達もいなかったから、誰にも親しい仇名で呼ばれたことがなかったのです
彼女はジョン・グリーア孤児院にて、リペット院長にいじめぬかれながら、十六歳までを過ごします。
しかし、彼女の書いた作文が あるお偉い評議員の目にとまったことで 人生が一変。
ジルーシャはその評議員にお金を出してもらってカレジ(大学!)に入学できることになったのです!
条件は、月に一回、ジルーシャの大学生活を手紙に書き、評議員に送ること。
かくして児童文学史、いや米文学史に燦然と輝く“書簡体”の素晴しい小説が生まれたのでした
***
そんなわけで今日は「あしながおじさん」「続あしながおじさん」の話をします
「あしながおじさん」と言えば「匿名で善行を積むひと」の代名詞となっていますね。では何故「あしながおじさん」が「あしながおじさん」と呼ばれているかご存知ですか?
ジューディが、正体不明の評議員さんを一回だけチラリと見かけたとき、彼の影が手足の長いクモのように浮かび上がったからなのです
あくまで正体を隠す評議員さんに手紙を書かなきゃいけないジューディは、せめて評議員さんを身近に感じようと、あしながおじさんという仇名をつけたのです
このように この物語は ジューディという女の子の快活な・ウィットに富んだ・時に癇癪もちな 文章によって全編を貫かれています
作者はウェブスターという女性ですが、挿絵も彼女自身が描いており、とてもユーモラスで素敵です
ご一読される際には是非ウェブスターの挿絵がついてる版をオススメします
***
この作品の魅力は 何と言っても アメリカのカレジでの楽しそうな日々です!
冒頭に上げた命題も相当心躍るものですよね!
その他にジューディは、サリーという愉快な親友を作り、ジューリアという高慢な子と知り合い
幼い頃に読めなかった「若草物語」「シャーロック・ホームズ」「不思議の国のアリス」「ロビンソン・クルーソー」「ジェーン・エア」「デヴィッド・カッパーフィールド」を読み耽り
そして「虚栄の市」「サミュエル・ピープスの日記」を読み耽り
バスケット・チームに入り大学総長選挙に熱狂し
夏休みは農場やサリーの家でニギヤカに遊び
美しい洋服に熱狂し
幾何を
ラテン語を
英語を
経営学に打ち込み、奨学金をとり
社会思想や宗教を考え
そして 恋をします。
小学生の私は、この本を読んで、アメリカではどのような文学が最低限の教養とされているか知りましたし、
何より大学での生活に心惹かれました。
楽しそうでおいしそうなんです
そしてあっという間に 今の私は大学生です
ジューディのおかげで 大学をどう楽しめばいいのか、コツはつかめているつもり◎なのですが…
***
善意のあしながおじさん、けれどジューディは、その善意を心から喜び盲目的に彼に従うわけではありません。
施しを受けるのを、彼女は嫌います。
姿を見せないくせに彼女にするべきことを押し付けるあしながおじさんにジューディは強く強く反発します。けれども感謝の心は忘れられません。
作中にはジューディの宗教観/社会観がはっきりと述べられています。
孤児院という社会の底辺にいたからこそ、彼女は現実的に物事を見据えます。
さて、あしながおじさんに対して愛と反発を感じるジューディ、その落とし所は如何に?
ぜひ読んでみてください◎
私の持っているのは岩波少年文庫です
***
さてさて「あしながおじさん」には続編があるってこと、意外に知られていないようです
邦題は「続あしながおじさん」ですが、原題は“DearEnemy”、「親愛なる天敵さんへ」というような意味です
この「続あしながおじさん」の主人公は、なんと、サリー!!
「あしながおじさん」でジューディの親友となった赤毛の女の子です
そしてサリーは、なんとなんと、かの悪名高きジョン・グリーア孤児院の院長となり、ここの立て直しを図るのです
青いギンガムチェックの服しか着られない子供たち、まずい食事、狭い部屋、無能な職員たち……
孤児たちには愛が足りません。
個人的にはこの続編の方が好きです!サリーのさっぱりしていて元気なことといったら!
そして孤児たちの乱暴で愛くるしいことといったら!
こちらも書簡体で書かれていますが、前回は「あしながおじさん」に向いてだけ書かれていたのに、今回は「ジューディ」「強敵さん」「ゴードン」の3人に向けて書かれています。
だからよりニギヤカになっています。
サリーは差出人によって書く内容も雰囲気も変えるのでそこが楽しいです。
和訳は「強敵さん」となっていますが、彼こそは原題に出ていたenemyのこと。
ジョン・グリーア孤児院の専属医師です。
とても気難しくて厄介な人物、だからサリーは彼を強敵と呼びます。
ゴードンはサリーの婚約者!!
もはや何も言うことはありますまい。けれど……
孤児院にはそりゃ多くの問題がふりかかります。
ひとつひとつが面白いのですが、全て書いていると、「続あしながおじさん」の全頁を丸写しすることになりかねません。
ぜひご一読を!私が持っているのは偕成社文庫です。